とりとめのないブログ・・・

税理士・中小企業診断士・CFP 篠川徹太郎事務所

ピケティ 「21世紀の資本」

話題の本、読みました。ミーハーかな ・・・

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経済学は聞きかじりの勉強しかしていないけど、この本は読めますね。著者が自らの研究を 「政治歴史経済学」 と称しているように、歴史的な統計データの積み重ねにより記述が進んでゆきます。私にはこうした統計データを検証する能力は無いけど、仮にこれらのデータが正当だとすると、多くの読者がピケティと同様の結論に至るのではないかと思わせる説得力があります。

また、著者はフランス人ですが、ヨーロッパやアメリカはもとより日本に関しても歴史的データに基づいた分析を行っていますので、我々にとっても大変に興味深い、示唆に富んだ内容になっていると思います。

元々が統計データなので、様々な観点から論じることが可能だし、自らの問題意識に応じて様々な読み方が可能な本だと思いますが、私にとっては3点、特に興味深く読みました。

アメリカにおける不平等の拡大

2011年のウォール街占拠では 「我々は99%だ」 という主張がなされ、一部の (金融エリートを中心とした) 高給取りに対して「強欲」 (greed) という批判の矢が放たれたわけだが、ピケティのこの本には、ウォール街を占拠した99%に共鳴する気持ちが込められていると思う。

問題は一部の金融エリートや企業経営者が貪る超高額な報酬なわけだが、ピケティはその主な原因を、アメリカにおいて所得税の最高限界税率が低下したことに求めている ・・・ 分かりやすい、あまりにも分かりやすい説明ではあるが、統計データを見る限り、確かに相関関係が認められる。

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こうしてみると、アメリカにおける所得税最高税率の引き下げがいかにドラスティックなものであったかが分かる。 では、所得税最高税率をまた引き上げればいいじゃないかという話になるが、どうもそこには難しい問題がひそんでいる様で、ピケティは次のように言っている。

強力なショックがないと、どうやら現在の均衡は当分続きそうだ。建国者たちの博愛主義的な理想は忘却の彼方へと消え、新世界はいまや21世紀のグローバル化経済の中で、かつてのヨーロッパになる寸前のところにいるのかもしれない。(pp.537-538)

かつてのヨーロッパとは、ピケティにとって、ベルエポックの頃のフランスということだ。

相続税累進課税がもたらす格差の解消

ベルエポックの頃のフランスというと、通常はその名の通り 「良き時代の」 フランスという事になるんだろうけど、ピケティが統計データから描き出すベルエポックは超格差社会である。

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トップ10%が国富の90%を、トップ1%が国富の60%を所有している社会がベルエポックにおけるフランスなのだ。

ピケティはこうした状態を 「フランス革命の不成功」 (p.380) として説明している。そしてその理由の一つとして、19世紀を通じて資産の移転に係る税率が1~2%と極めて低かったことを挙げている。現代の意味における相続税が無く、登録免許税しかなかったという状態が、富の集中を招いたというのがピケティの考え方のようだ。

これは極めて興味深い指摘であると思われる。本書の基本的テーゼである r > g (資本収益率は経済成長率よりも高い) により、政府の介入なしでは富の集中が自然的に進んでゆくことになるが、その進行をコントロールする最も有効なツールが相続税や贈与税の累進課税であるというのだ。

日本では今年から相続税増税 (課税ベースが拡大) されましたが、国際的には相続税は縮小傾向にある。

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また、税理論的には相続税には二重課税の疑いが払拭できず (生前に課税された後に残された課税済み資産にさらに相続税として課税するのは二重課税であるとか、あるいは逆に、相続税で課税されてなお所得税として課税するのは二重課税であるとか ・・・) 何かと肩身の狭い思いをしているのだが、富の偏在をコントロールする最も有効なツールであるとするならば、相続税に対する見方も少しは変わってくるのかもしれない。

日本の在外財産比率

ピケティは資本主義の第二基本法則として β=s/g の算式を挙げている。 ここで、β=資本/所得比率、s=貯蓄率、g=成長率である。 問題は、日本のように貯蓄率が高く成長率が低い国では、資本の蓄積が他の国と比べて急速に進み、これが 「深刻な政治的緊張をもたらすおそれがある」 (p.200) ということだ。

次の表はタックスヘイブンに保有されているであろう資産の推計を表しているものだが、これを見ると日本だけが愚直に国外資産を積み上げていることが分かる。

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外資産が増えたっといって単純に喜んでいるわけにはいかないだろう。戦前の植民地は、元々は欧米の経済的優位性からスタートし、軍事力によって固定化していったわけだが、そんな歴史を繰り返すわけにはゆかない。 かといって、国外資産がみすみす外国政府に接収されるようなことになれば、やはり面白くないだろう。

国外投資が避けられないものであるとするならば、そのあるべき姿を真剣に考える時期が来ているのかもしれない。 そうでなければ、あの愚かしいバブルを何度も経験しなければならないことになるのだろうから。

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