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とりとめのないブログ・・・

税理士・中小企業診断士 篠川徹太郎事務所

海外在住の役員に対する退職金

顧問先の会社から、海外 (アメリカ) 在住のAさん (日本人) とBさん (アメリカ人) に退職金を支払うにあたっての注意事項を教えてほしいとの依頼がありました。
国税庁の質疑応答事例に 「非居住者である非常勤役員に支払う退職金」 についての記載があり、参考になります。

【照会要旨】
内国法人A社の非常勤役員の中に、米国の居住者である米国人B(日本では非居住者に該当)がいますが、この外国人役員については、近く交代が予定されており、退任に際してA社から若干の退職金が支払われる予定です。このような非居住者である外国人役員に対して支払われる退職金は、どのような課税関係となるのでしょうか。

【回答要旨】
非居住者である役員に支払う退職金については、租税条約上の役員報酬条項が適用されます。
所得税法の規定では、非居住者に支払う退職金のうち、居住者として勤務(内国法人の役員としての勤務で国外において行うもので国内における勤務とみなされるものを含みます。)した期間に対応する金額は、国内源泉所得に該当することとされ、その支払の際に源泉徴収が必要となります。 (以下省略)

では、「租税条約上の役員報酬条項」 とはどのようなものでしょうか? 日米租税条約第15条には次の記載があります。

一 方 の 締 約 国 の 居 住 者 が 他 方 の 締 約 国 の 居 住 者 で あ る 法 人 の 役 員 の 資 格 で 取 得 す る 役 員 報 酬 そ の 他 こ れ に類 す る 支 払 金 に 対 し て は 、 当 該 他 方 の 締 約 国 に お い て 租 税 を 課 す る こ と が で き る 。

つまり、非居住者である役員に対する報酬等については、国内における所得税法の規定に従って課税されるということを日米租税条約第15条では述べているにすぎません。

混同しやすい規定として日米租税条約第17条があります。

一 方 の 締 約 国 の 居 住 者 が 受 益 者 で あ る 退 職 年 金 そ の 他 こ れに 類 す る 報 酬 ( 社 会 保 障 制 度 に 基 づ く 給 付 を 含 む 。 ) に 対 し て は 、 当 該 一 方 の 締 約 国 に お い て の み 租 税 を 課す る こ と が で き る 。

この第17条は、企業年金を含む厚生年金等の二重課税を排除するための規定であるとの理解です。つまり、日本の所得税法では雑所得に区分される退職 「年金」 に関する規定であって、退職所得に区分される退職 「一時金」 に関しては第17条の規定の適用は無いと考えられます。

ところで、非居住者の場合、所得税の課税対象となるのは国内源泉所得だけです。例えば、米国の子会社に出向した社員に対して国内において支払われる報酬等 (いわゆる国内給) は、国外源泉所得として所得税非課税です。 すると、非居住者である役員に支払う退職金についても、同様に国外源泉所得としてその全額が非課税になるのではないかとの思惑が生じます。

これに関して、所得税法第161条第8号において国内源泉所得について次のような記載があります。

イ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの
ロ (省略)
ハ 第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等のうちその支払を受ける者が居住者であつた期間に行つた勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として非居住者であつた期間に行つた勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの

カッコ書きにおいて、役員について別扱いとしていることが分かります。つまり、使用人に関しては非居住者であった期間に行った勤務は国外源泉所得として取り扱うものの、役員に関しては非居住者であった期間についても国内源泉所得として取り扱うということです。

役員の退職金に関しては上記(ハ)で論点が尽くされていると考えられますが、報酬に関してはもう少し細かな規定が残されています。

所得税法第161条を補完する所得税法施行令第285条に次のような記載があります。

法第161条第八号イ(国内源泉所得)に規定する政令で定める人的役務の提供は、次に掲げる勤務その他の人的役務の提供とする。
一 内国法人の役員としての勤務で国外において行うもの(当該役員としての勤務を行う者が同時にその内国法人の使用人として常時勤務を行う場合の当該役員としての勤務を除く)

ここで、使用人兼務役員と使用人兼務ではない役員との明確な区分が認められます。

つまり、非居住者である役員に対する報酬等は原則として国内源泉所得として取り扱うが、使用人兼務役員の場合には、カッコ書きにおいて、国内源泉所得には該当しないとの取扱いを定めています。

関連する質疑応答事例として、「米国支店で使用人として常時勤務する役員の報酬」 についての記載があります。

【照会要旨】
内国法人A社の役員Bは、ニューヨーク支店で支店長として常時勤務していますが、本社からこの役員Bに役員報酬を支払う際に所得税源泉徴収は必要でしょうか。

【回答要旨】
照会の役員Bに支払う報酬については、国外源泉所得とされ、その支払の際に源泉徴収をする必要はありません。
内国法人から支払われる役員報酬は原則として国内源泉所得とされますが、国外において内国法人の役員としての勤務を行う者が同時にその内国法人の使用人として常時勤務を行う場合には、一般の使用人が国外において勤務した場合と同様に国内源泉所得に該当しないこととなっています。
(注) 非居住者である内国法人の役員が、その内国法人の非常勤役員として海外において情報の提供、商取引の側面的援助を行っているに過ぎない場合は、ここでいう「内国法人の使用人として常時勤務を行う場合」には該当しません。

使用人兼務ではない役員について、その法人の非常勤役員として「海外において情報の提供、商取引の側面的支援を行っているに過ぎない」場合には、国内において源泉徴収が必要だと言っているわけですね・・・
これはどのような場合かと考えてみるに、社長の息子だとか株主一族だとかの「身分」に応じて海外に居住しつつ内国法人の役員に名を連ねているケースで報酬(国内給)が支払われる場合に、源泉徴収の可能性を残してあるということでしょう。

そして、「ニューヨーク支店で支店長として常時勤務している」のかそれとも「海外において情報の提供、商取引の側面的支援を行っているに過ぎない」のかについては、見解の相違が生じる可能性が高いものと思われます。

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