とりとめのないブログ・・・

税理士・中小企業診断士・CFP 篠川徹太郎事務所

フランス極右の新展開

アメリカではトランプ大統領が誕生し、今年の春にはフランス大統領選が行われます。

国民戦線マリーヌ・ルペンがフランス大統領になったら大変だ・・・みたいな雰囲気ですが、なにがどのように大変なのか、少し調べてみた。

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興味深かったのは、国民戦線(FN)創始者であるジャンマリー・ルペンが政治の世界に登場したのは、プジャード運動を通じてであったということ。プジャード運動については先の記事でも言及しておりました。

 

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1950年代のプジャード運動の遺伝子が、ルペン一族が率いるFNに承継されているのではないかと、その点に私の個人的な興味がある。 

プジャード運動とは、大雑把に言って、1954年の付加価値税の導入を契機に、戦後の近代化の流れの中で相対的に地位を低下させいったフランスの「小ブルジョワ層」たちが、そうした流れに抗うためにプジャード率いる商工業者防衛連合(UDCA)に集結していった、反近代化・反税および国粋主義的な運動である。

着目すべき点は、プジャード運動が付加価値税の導入を契機に巻き起こった運動であるということ。

付加価値税とは実は日本の消費税の原型なのだが、この税目には、輸出免税の規定が組み込まれていることによって、ドイツなど外国との貿易を促進しつつEC統合に向けて歩みを進める、といった1950年代当時のフランスのエリートが目指す国家戦略が内包されていると考えられる。

ところが、プジャードらが代弁する中小商工業者にとっては、輸出免税の規定は何のメリットも無い。付加価値税という新たな税目の導入によって、ただ単に増税が行われたということである。そのため、プジャード運動は反税闘争として、地方の「小ブルジョア層」から広く支持を集めたものであった。

また、商工業者防衛連合(UDCA)の主要な運動の一つであり、近年に至るまでフランスで発生していた反スーパーマーケット運動も、付加価値税に対する反対運動であると捉えることができる。

なぜなら、付加価値税(日本の消費税)はその税額を相手先に転嫁できる場合には納得感のある税目であり、したがってBtoB取引ではさほど問題視されることはない。しかし、BtoC取引である小売業についていえば、税額を転嫁するということは値上げをするということであり、良心的な小売業者であれば値上げに対する心理的ハードルは高く、結果として付加価値税(日本の消費税)による重税感に苦しめられることになる。

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しかし、プジャード運動の主な担い手である「小ブルジョワ層」には、欧州統合や最新の物流網を駆使した大手小売業のスケールメリットを押しとどめるだけの力はなく、こうした運動は長い間(最近に至るまで)衰退してゆくことになる。

プジャード運動について、「経済的後進性、周辺性、偏狭な精神構造、経済成長や技術革新に対する盲目的な拒否を含意した蔑称となっている」(フランス史3:山川出版社)との見方が一般的なんだろうけど、まあ~これまた随分と「上から目線」な言い方なんじゃないかと思います。

ところで、最近のフランスではISなどによるテロが頻発しており、また経済的な面でもエナルクたちが推し進めたEU統合による負の側面が否応なしに意識されるようになってしまっている。

1975-88年のフランスは、工業部門での雇用の20%が失われている(西ドイツでは3.7%)。(「フランス極右の新展開」146ページ)

EC統合からとりのこされる人びとはだれか。それは、国家による保護政策をうけにくくなる農漁民であり、中小企業関係者である。(「フランス史3」457ページ)

こうした、自由主義的世界から取り残されてしまったような人々に対して保護主義的な言説を弄して支持を集める手法は、まるで現在のアメリカ大統領のようであるが、勘違いしてはいけない、こうした言説はFNが本家本元であって現在のアメリカ大統領は恐らくそこから学習したのであろう。

ポピュリズムナショナリズム・・・時代は今一度こうした方向へ舵を切りつつあるのかもしれない。その背景には欧米における政治家やエリート官僚に対する不信感が横たわっているようだ。

フランス国民は、左翼ー右翼という概念の有効性すら疑い始めており、80年代には「その概念は妥当しない」という回答が「いまだに妥当する」という回答を大きく上回っていく。・・・結果として、左右の対立軸より、垂直的軸が政治空間で前面に出てきた。市民の多くは、政治自体から排除されているという感覚を強め、自分たちの上に立ち、庶民の事を考えない政治家や官僚への反感を募らせた。エリート対庶民の対立構図が浮かび上がってくる。・・・FNの台頭は、明らかに政治的代表制の危機や政治の価値低下といった現象から養分を得ている。(「フランス極右の新展開」28-30ページ)

こうした対立構図の中でFNが支持を伸ばしているのであれば、ただ単に「極右」という一言で片づけるわけにはいかないような気がする。

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