書評です。
信用金庫は信用金庫なりに色々な苦労があるのだな~ということが良く分かった一冊。
バブルの頃のように不動産に貸し込んで破綻するなんてのは論外だけど、金融円滑化法の終了を見据えて、不良性の債権をどのように自己査定するのか、そろそろ逃げてばかりもいられない、そんなタイミングで出版された本でしょう。
「リレバン」 だとか 「金融機関のコンサル機能」 だとか、そのあたりのスローガンが一体どういう背景から生まれているのか正直言って良く分からないところがあったわけだけど、それを理解するためには信用金庫が 「協同組合金融機関であり相互扶助を目的として」 なおかつ 「地域密着を信条として」 いるという 「金庫側の複雑な思い」、つまりはその理念を尊重する必要があるということが良く分かりました。
たかが理念、されど理念、というわけです。
元々はこの本、学位論文として書かれたものでしょうか、前半は生硬な記述が目立ちますが、後半にかけてがぜん面白くなります。というのも、この著者自身が信用金庫 (京都みやこ信用金庫) の審査部門に在籍していたその時に破綻を経験することになったからです。そのあたりのケーススタディは視野も広く臨場感もあり、興味深く読み進むことができました。
著者は勤務先破綻の経験を 「10年以上経過した今でも辛い思い出としてよみがえる」 と記しておりますが、私自身勤務先の破綻を経験しているため、その思いは良く共有できます。そうした思いを抱えながら一冊の本にまとめられた著者の自制心と向上心に敬意を表しています。
ただ、「信用金庫は非営利の協同組合金融機関であり相互扶助を目的とする」 といった記載など、さすがに非営利ではないだろうということなのですが、本店の審査部門に在籍したことのあるレベルの方でも、信用金庫は非営利の協同組合であると自己認識していること自体が興味深かったです。